『明るい自分』

入社式当日になった。
それまで、せっかく素敵なスーツとウィッグを
残念なものにしないためにも、今まで買ったことの
ないようなファッション雑誌を購入し、メイクの仕方も勉強した。
アイメイクを工夫するだけで、顔が明るくはっきりすることがわかった。
メイクを変えると、これまで着ていたデニムやカットソーが、
物足りないものになり、ずっと貯めていたバイト料を崩して、
私服も買いなおした。入社式前に実家に顔を出すと、母親が一番驚いていた。

「彼氏でもできたの?」

そのセリフがおかしくて笑いころげてしまった。

「楽しそうでいいね。仕事がんばんなよ。」

嬉しそうに笑う母親の顔が印象的だった。

ドキドキはしたけれど、今までの緊張とは違い、わくわくにも似た感じ。
スーツもメイクもしっかり準備し、仕上げにウィッグをつける。
2ヶ月前とは全く違う自分がいる気がした。
けれど、入社式会場は知らない人ばかり。
早めに到着したのだけれど、知り合い同士なのか、
入社試験や面接で仲良くなっていたのか、2人で来るひとも多かった。
一気に緊張が高まって、元の自分に戻ってしまったような感じがした。
でも、わたしの心配は無用だったようで、すぐに何人か声をかけてくれた。
コサージュがかわいいといってくれたり、どこでスーツを買ったの聞かれたり。
綺麗に巻かれた長い髪は、ウィッグではないのだろうな。
いつの間にか5〜6人のグループになり、どこの学校出身なのかとか、
どこに住んでいるのか、自己紹介のような話しをしていた。
初対面なのに冗談を言い合って笑いあっている。
そんなところにいる自分が不思議な気もしたけれど、なんとなく優越感。
今まで『外見より中身』と、どこかで努力することから逃げるための
言い訳をしていたんだと思った。もっと早く努力していれば、
高校生活も違うものになっていたかな?